私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~
「申し訳ありません。この能力は広範囲に渡って影響を及ぼしてしまうんですよ。大変不便な能力でして、滅多に使わないんです。もちろん、戦場では重宝致しましたが……」
カツカツと、風間さんが通り過ぎる音がする。
風間さんがどんな表情をしていたのかは分からない。
だけど、なんとなくまた笑んでるんだと思った。
その笑みは、いつもの愛想笑いか、それとも酷薄な冷笑なのか……。
どちらなのかは分からない。
でも、私は冷笑なのだろうと思った。
声音がそう思わせた。
「皆様、いま少しご辛抱下さい」
そう言って足音が止まる。
「ひっ!」
後ろから慄く声が聞こえた。
「さようなら」
冷徹な声が響いて、
「ぐぎゃ!」
喉が潰れたような悲鳴が、刹那的に上がった。
心臓が逸る。
恐ろしい。怖いことが、すぐ後ろで起きている。
身動きが取れず、状況が見えない中で、私はそれを十三回聴いた。