私の中におっさん(魔王)がいる。~風間の章~

 * * *

「……」

 風間さんの術なのか、能力なのか分からないけど、あの重苦しさから解放された私は、目の前の光景に愕然としていた。

 山賊が全員死んでいる。もちろんティサンも。
 頭は首から血を流していた。喉から大きく切り裂かれている。他にも同じように喉を切り裂かれていた者が数人いた。
 腕や人が邪魔をして喉を裂けない者は、背中から心臓を一突きにされていた。

 それを見て、私の頭に、ある光景が浮かんだ。
 貞衣さんと晴さんの、死に様だった。
 あのときの二人も、今と同じように殺されていた……。

 貞衣さんは喉を大きく切り裂かれ、晴さんはこの男達と同じように、背中を一突きにされていた。

 否応なしに、あの光景が鮮明に思い出された。
 涙がぱたぱたと流れ落ちる。

「大丈夫ですか?」

 風間さんは血のついたナイフをハンカチでふき取り、それらをポケットにしまって、私に手を差し出した。

「ありがとうございます」

 涙を拭って、手を取る。
 立ち上がると、もうすでに乗客達は撤収の準備を始めていた。まるで、何事もなかったみたいだ。

「みんな、平気なんでしょうか?」
「こういうことも、割と日常茶飯事なので」

 風間さんが自嘲のような笑みを浮かべた。

 ……本当に、死が身近な世界なんだ。

 私は今まで、どれだけ平和な世界にいたんだろう。

(でも……だけど、殺さなくたって――)

 憤りが胸をつかえる。
 貞衣さんと晴さんの最後の顔が、頭から離れなかった。

「あの――」
「はい?」

 殺す必要ってあったんですか? そう訊こうとして口をつぐんだ。助けてもらったのに、なんだか責めるみたいなのは憚られた。

「あの、えっと、さっきの術も雪村くんの呪符で?」

 風間さんはかぶりを振った。
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