死にたい少女は死神をみる
思わぬ助け
照りつける太陽。
五月蝿い蝉の声。
何しろ、今は真夏の炎天下の中、徒歩10分もかかる駅まで歩いているのだから、暑苦しい息苦しい。
「あっつ…」
私、荒木紗夏は、たまらず、溜息をついた。
そもそも、電車で通わなければならないほど遠くの高校を選んだのが悪かったのだ。
10分なんて、と思うかも知れないけど、この10分は私にとっては長い。
肩まで伸びた髪が鬱陶しくて、手首に付けていたゴムでまとめると、再度溜息をつく。ああ、暑い。
と、そこへ、けたたましくサイレンを鳴らしながら、救急車が私の横を通り過ぎた。
この異常な気温だ。熱中症患者でも出たのだろう。
「…」
私は、小さくなっていく救急車をじっと目で追う。
救急車の後ろに、黒ずくめの人物がみえた。急ぐ車に追いつく速さからして、人間ではない。そして、この人物は私以外には見えない、いや本当は誰にも見ることは出来ないはずの、死神なのだ。
「いた。死神……」
思わず、ぽつりと呟いた。
残念なことに、あの救急車で運ばれた人は死んでしまうらしい。
そう。死神が追いかける人物は、必ず死ぬ。
止めかけた歩みを慌てて進め、周りの人達に不審に思われないよう心がける。
朝から、憂鬱だ。
****
駅から学校までの道のりは、ありがたいことに、すぐだった。
急ぎ足で門を通り抜け、下足ロッカーで上履きに履き替える。クラスメイトに一応挨拶をして、早く涼みたいと叫ぶ身体のために階段をかけ上った。
ガラガラと教室のドアを開け、中に入ると、冷房の効いた空間が私を迎える。
「はぁ…」
ドアを閉めて振り返ると、さっさと席につく。
先に来ていたクラスメイトは、私にちらと視線をうつしただけで、挨拶はしてこなかった。
日常茶飯事だ。これくらい、どうってことはない。
私は、スマホを取り出し、イヤホンをつけて音楽に集中することにした。授業が始まるまで。
授業は全部、全く面白くなかった。つまらなさすぎて、とるべきノートだけ写して、残りの時間は窓の外を眺めてやり過ごした。窓側の席で助かった。退屈を、少しでもしのげるから。
昼休みは1人で屋上へ行き、おにぎりを頬張りながら学校の外の様子を観察する。
例の死神は、今朝以来見ていない。
誰も私に構わない。いつも通りの日常。
部活動に入ってもないし、バイトがある訳でもない私は、終礼が終わると、誰よりもはやく教室を出た。
帰り道。電車から降り、駅から家まで歩く。朝と同じような暑い温度と、急ぐ必要が無い余裕が、私の足どりを重たくする。
そのまま私は何も考えずにぼーっと横断歩道に足を踏み入れる。
すぐそこに、車が迫っていることに気が付かずに。
「ッ!!!!」
駄目、かも知れない。
引かれる。
そう思って思わず目を瞑った、次の瞬間。
車は急ブレーキをかけて、私に当たるギリギリのところで、止まった。
ほっとして、息を吐き出した。が、すぐにヒュッ、と吸い込まれる。
私は、目の前の光景に目を疑った。
、、
あの死神が、私の横で、その車を片手で抑えていたのだ。
もちろん運転手には死神は見えないため、運転手は心底ほっとした顔をしていた。
私は運転手に口パクで謝り、小走りで横断歩道を渡り切る。車は、再び動き出した。
振り返ると、車をとめた死神とばちっと目が合う。
「…ッ!」
私は目を見開いたが、死神は無表情ですいっとこちらに来る。
「おまえ、俺が見えんだな」
立ち止まったままの私に、すれ違い様にこう囁き、死神はその場を去った。
****
驚いた。まさか、死神に命を救われるなんて。
死神というのは、人の命を奪うものなんじゃ…?
マンションの自室に帰ってきてからも、この疑問はずっと私の脳内を支配していた。
だって、死神だ。私が見てきたのは、死神ぽいことを死神らしくしているところだ。だから、「多分私は死神が見えてしまっているのだろう」と思ったのに。
「いや…なんだったのあれ…」
独り言を呟き、リビングの机に突っ伏す。
私が今、自室でひとりぼっちな訳。両親は帰りが遅く、朝も早い時間に出勤して行くため。だから、ほとんど顔を合わせることがない。それが少し寂しい。休みのとれた日には、家族そろって出掛けられるが、それも1年に何回かくらいだ。
帰ってきても、学校の課題が終わるともうやることがない。
私は、暇にたえかねて、マンションの屋上に行くことにした。
五月蝿い蝉の声。
何しろ、今は真夏の炎天下の中、徒歩10分もかかる駅まで歩いているのだから、暑苦しい息苦しい。
「あっつ…」
私、荒木紗夏は、たまらず、溜息をついた。
そもそも、電車で通わなければならないほど遠くの高校を選んだのが悪かったのだ。
10分なんて、と思うかも知れないけど、この10分は私にとっては長い。
肩まで伸びた髪が鬱陶しくて、手首に付けていたゴムでまとめると、再度溜息をつく。ああ、暑い。
と、そこへ、けたたましくサイレンを鳴らしながら、救急車が私の横を通り過ぎた。
この異常な気温だ。熱中症患者でも出たのだろう。
「…」
私は、小さくなっていく救急車をじっと目で追う。
救急車の後ろに、黒ずくめの人物がみえた。急ぐ車に追いつく速さからして、人間ではない。そして、この人物は私以外には見えない、いや本当は誰にも見ることは出来ないはずの、死神なのだ。
「いた。死神……」
思わず、ぽつりと呟いた。
残念なことに、あの救急車で運ばれた人は死んでしまうらしい。
そう。死神が追いかける人物は、必ず死ぬ。
止めかけた歩みを慌てて進め、周りの人達に不審に思われないよう心がける。
朝から、憂鬱だ。
****
駅から学校までの道のりは、ありがたいことに、すぐだった。
急ぎ足で門を通り抜け、下足ロッカーで上履きに履き替える。クラスメイトに一応挨拶をして、早く涼みたいと叫ぶ身体のために階段をかけ上った。
ガラガラと教室のドアを開け、中に入ると、冷房の効いた空間が私を迎える。
「はぁ…」
ドアを閉めて振り返ると、さっさと席につく。
先に来ていたクラスメイトは、私にちらと視線をうつしただけで、挨拶はしてこなかった。
日常茶飯事だ。これくらい、どうってことはない。
私は、スマホを取り出し、イヤホンをつけて音楽に集中することにした。授業が始まるまで。
授業は全部、全く面白くなかった。つまらなさすぎて、とるべきノートだけ写して、残りの時間は窓の外を眺めてやり過ごした。窓側の席で助かった。退屈を、少しでもしのげるから。
昼休みは1人で屋上へ行き、おにぎりを頬張りながら学校の外の様子を観察する。
例の死神は、今朝以来見ていない。
誰も私に構わない。いつも通りの日常。
部活動に入ってもないし、バイトがある訳でもない私は、終礼が終わると、誰よりもはやく教室を出た。
帰り道。電車から降り、駅から家まで歩く。朝と同じような暑い温度と、急ぐ必要が無い余裕が、私の足どりを重たくする。
そのまま私は何も考えずにぼーっと横断歩道に足を踏み入れる。
すぐそこに、車が迫っていることに気が付かずに。
「ッ!!!!」
駄目、かも知れない。
引かれる。
そう思って思わず目を瞑った、次の瞬間。
車は急ブレーキをかけて、私に当たるギリギリのところで、止まった。
ほっとして、息を吐き出した。が、すぐにヒュッ、と吸い込まれる。
私は、目の前の光景に目を疑った。
、、
あの死神が、私の横で、その車を片手で抑えていたのだ。
もちろん運転手には死神は見えないため、運転手は心底ほっとした顔をしていた。
私は運転手に口パクで謝り、小走りで横断歩道を渡り切る。車は、再び動き出した。
振り返ると、車をとめた死神とばちっと目が合う。
「…ッ!」
私は目を見開いたが、死神は無表情ですいっとこちらに来る。
「おまえ、俺が見えんだな」
立ち止まったままの私に、すれ違い様にこう囁き、死神はその場を去った。
****
驚いた。まさか、死神に命を救われるなんて。
死神というのは、人の命を奪うものなんじゃ…?
マンションの自室に帰ってきてからも、この疑問はずっと私の脳内を支配していた。
だって、死神だ。私が見てきたのは、死神ぽいことを死神らしくしているところだ。だから、「多分私は死神が見えてしまっているのだろう」と思ったのに。
「いや…なんだったのあれ…」
独り言を呟き、リビングの机に突っ伏す。
私が今、自室でひとりぼっちな訳。両親は帰りが遅く、朝も早い時間に出勤して行くため。だから、ほとんど顔を合わせることがない。それが少し寂しい。休みのとれた日には、家族そろって出掛けられるが、それも1年に何回かくらいだ。
帰ってきても、学校の課題が終わるともうやることがない。
私は、暇にたえかねて、マンションの屋上に行くことにした。