恋の駆け引き~イケメンDr.は新人秘書を手放せない~
「お疲れ様でした」
ミーティングが終わったのは午後9時半。

先輩たちはそのまま飲みに行ってしまった。
きっとこの後、異動の話で盛り上がるんでしょうね。
当然、私は呼ばれない。
元凶だし。


「並木くん、ちょっといい?」
「はい」
ちょうど帰り支度をしているところを、課長に呼ばれた。

イヤだ、何言われるんだろう。

「副院長とはどうなの?」
いきなり、直球。

「同居解消に向けて、アパートを探そうと思っています」
「それは・・・ただの同居人だったってことかな」
「はい」

どうしてですか?
なぜ、そんなこと。
文句を言われるほど親しげな行動をした覚えはないけれど。

「副院長、最近すごく投げやりなんだよ」
「投げやりですか?」
「うん。今度外科にくる和田先生。彼女は高校からの同級生でね、俺もよく知っているんだけれど、前から彼女をうちに呼んでゆくゆくは副院長と一緒にさせたいって、院長は考えていたんだ」
「はあ」
やっぱりそういう人だったのね。

「でも、副院長が断り続けた。それが、先週になって急にそれでいいなんて言い出したから・・」
「はあ」
「君、何か知ってる?」
「いいえ」

そんなの知るわけ・・・ない。
知っていても、私のせいじゃないし。

「僕が見る限り、副院長には君が必要だと思うけれど」
「まさか。課長の気のせいです」
私がいるだけで、すぐに機嫌が悪くなるのに。

「君はどうなの?」
「私にとっては、仕事上の上司です。それ以上でもそれ以下でもありません」

「本当に?」
「ええ」

「まあ、いいよ。プライベートにまで口を出す気はないから。でもね、仕事に影響が出るのは困る」
いつもは物腰やわらかで穏やかな課長なのに、いざとなるとやっぱり厳しい。

「大丈夫です。迷惑をかけるつもりはありませんし、公私混同もしません」
「そう、それなら何も言うことはないね。よろしくお願いします」

いつも以上にどっと疲れたミーティングは、やっと終わった。
その足で、私は病院を後にした。

これからは、仕事に徹しよう。
ボスの元を離れることになるにしても、このまま働くにしても、きちんと距離を保とう。
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