恋の駆け引き~イケメンDr.は新人秘書を手放せない~
「えらくいい男捕まえたようだな」
「な、何を言ってるの」
「皆川総合病院の御曹司とはな」
「違う」
ボスは関係ない。

「隠したってダメだ。何度も見たんだから」
ニタニタと、いやらしい笑い顔を崩そうともしない。

ああ、そういえば。
今、男が着ている警備の制服。
マンションの駐車場にも時々警備会社が入っている。

そういうことかあ。

「なあ、ちょっと金貸せよ」
「お金なんてないわ」
「じゃあ、副院長にもらうか」
「やめてっ」

そんな関係じゃない。
私とボスはただの、

「別にいいさ。お前がくれないのなら、副院長にお前の過去を話して金をもらうだけだ」

ダメ。
それは絶対に。
そんなことされたら、私生きていけない。

「それにしても、大人になったなあ」
恐怖のあまり動けないでいる私に、男が歩み寄り腰に手をかけた。

無理。
お願い触らないで。

「今晩付き合えよ」
「やめてー」
男を突き飛ばし、私は走り出した。


マンションまでどうやって帰ったのかの記憶はない。
玄関を開けると、明かりはついているもののボスの姿はなく、私は自分の寝室へと直行した。
男に触られた恐怖と嫌悪で震えが止まらなかった。

だからといって、ボスに言うこともできない。
ガタガタと震える体を布団に潜り込ませ、私は眠れない夜を過ごした。
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