恋の駆け引き~イケメンDr.は新人秘書を手放せない~
「見てごらん」
うつむきながら必死に足を進めていた私に声がかかり、頭を上げる。

「うわああぁー」
もう絶叫だった。

すごい、すごすぎる。
そこは天空の世界。
足元に広がる雲海。
遠くに広がるミニチュアみたいな街。

これまでの苦労が一気に消えていった。

「気に入った?」
「はい」
登山をする人の気持ちが少しわかった。
こんなご褒美があるなら、また登りたくなる。


山頂で、2人並んでおにぎりを食べた。

「色んな事に行き詰まると、ここに来るんだ」
お日様に照らされているせいか、まぶしそうに目を細めるボス。
その顔は、いつもとは違って見えた。

「副院長でもそんなことあるんですね」
「まあね」
あれ、毒舌が返ってこない。

「大丈夫ですか?」
「ああ」
それ以上かける言葉がなくて、私たちはただ黙って山並みを見下ろした。
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