恋の駆け引き~イケメンDr.は新人秘書を手放せない~
今日のボスは普段とは違っていた。

少しだけ優しくて、寂しそう。
いつもの意地悪な言葉が、聞こえてこない。

「温泉、ゆっくり入っておいで。いつも急いで入ってるだろう?」
え?
「いや、女性って普通はもっとゆっくり入るじゃないか」
照れくさそうにキョロキョロしてる。

言われてみれば、ボスのマンションでは急いでお風呂に入ることが多かった。
でもそれは、早く上がって少しでも仕事をしたかったから。

それに、『女性って普通はもっとゆっくり入るだろう』って、かなり経験豊富な発言。
きっと、素敵な人たちと恋愛してきたんだろうボス。
そんな人たちと比べられると思うと、自分が惨めすぎる。

「ほら、どうしたの。行くよ」
「はい」

温泉は男女それぞれに露天風呂やサウナがあり、とってもゆったりできた。
本当に久しぶりに長湯をした。

「すみません。お待たせしました」
「いいよ。ゆっくりしろって言ったのは俺だ」

やっぱり、いつもより優しい。
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