恋の駆け引き~イケメンDr.は新人秘書を手放せない~
トントン。

「おはようございます」
ノックの返事も待たず、武広が顔を出した。

理由はわかっている。
きっと昨日の欠勤に文句を言いたいんだ。

「並木さん少し外してくれる?」
彼女に席を外すように言い、俺の前に立った。

そして、ジーッと睨んでいる。

「言いたい事があるんだろう、言えよ」
自分に非があるのは分っていて、それでも強い言葉が口を出た。
「お前はないのか?」
すでに敬語でなくなっているのは怒っている証拠。

「昨日は考えをまとめたいことがあって休んだ。すまなかった」
どんなに強がっても、武広には通じない。
意地を張るだけ無駄だ。

「リストラか?」
心配そうな顔。
「ああ」

最近の病院は電子化が進んでいる。
カルテも検査もすべてコンピュータ管理。
それに伴って、すべての業務がパソコンで行われる。
必然的に、年配者より若者の方が得意だ。
その上、不景気は病院経営も同じで、経営の健全化のためには人員はできるだけ押さえなくてはいけない。
そうなると長く勤めたスタッフから若者へのシフトチェンジの問題が出てくるわけで・・・
俺は今その難題を突きつけられている。

はあー。
また溜息が出てしまった。
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