恋の駆け引き~イケメンDr.は新人秘書を手放せない~
「体調は大丈夫?」
「ああ、はい。その節は大変お世話になりました」
「それはいいけれど・・・」

ん?
何か言いたそうな先輩。

「何ですか?」
「イヤ、並木は変わらないなと思って」
「それは・・・褒めてませんよね」

ククク。
先輩笑ってる。

高校時代、先輩は人気者だった。
陸上部の短距離選手で、かっこよかった。
長距離の補欠だった私が苦しくて足を止めそうになると、
「並木、まだいける。もう少し頑張れ」
そう声をかけてくれた。

「学生時代はジャージばっかりで、未だにスーツには慣れない。格好悪いだろう?」
「そんなことありません」
新社会人なんだから、それが当たり前。
かえってかわいいと思う。

「副院長は、かっこいいよな」
へ?
「大人だしさ、仕事もできるし」
「そうですね」
住む世界の違う人だなって、時々思う。

「怒ってたな」
「え?」
「あの時」
ああ、副院長室でばったり出会ったとき。

確かに、かなり怒っていた。

「俺、殺されるかと思ったわ」
いや、それは大げさ。
いくらボスでも、手は出さない。

「俺の知ってる副院長ってさあ、いっつも笑顔で、優しくて、優秀な医者。まさかあんなに睨まれると思ってなくて、マジびびった」
あの時を思い出してか、先輩は顔を引きつらせている。

よっぽど怖かったんだねえ。私なんていつもだけれど。

「私の前ではいっつもあんな感じです」
気にすることありませんってつもりで言ったのに、
「それはお前限定だろ」
「はあ?」
「気づいてないわけないよな?」
何が?

はあぁー。
先輩の溜息。

「副院長も大変だ」

だから、
「何がですか?」
「いや、いい。直接副院長に聞け」
それ以上、先輩は何も教えてはくれなかった。

ただ美味しいケーキとコーヒーを飲みながら、高校時代を思い出した。
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