素直になれたら
心菜(放送局の仕事というと、一般的には、『編集』『撮影』『原稿』・・・と、それぞれ部署が分かれていて、役割がちゃんと決まっている。

けれど、「MIKASA net TV」のように地方の小さなケーブルテレビ局では、人手が足りず、全員がいろんな仕事を任される。

中途入社3ヶ月足らずの私ももちろん例に漏れずで、編集はもちろん、撮影でカメラも回すし、未熟ながら原稿も書くし、アナウンサーがいない時には、ナレーションだって入れたりする。

この、ほぼ素人同然のこの私が!!

私なんぞがしていいものかとかなり毎日不安だけれど、人はいないし時間はないしで、言われたことを、とにかくこなすしかない日々だ。

やりがいがないわけじゃない。むしろ、やりがいを感じる暇がないほどに、やりがいってやつはあるかもしれない。

あるかもしれないけど・・・いくらなんでも忙しすぎるし!!)

心菜、作業中の部下を怒鳴り散らしている相田の後ろ姿をチラリと見てため息をつく。

心菜(相田さんは、制作部のマネージャー。
普通の会社で言ったら、部長や課長的な立場の人で、制作部では一番上の役職になる。

仕事ができるのはわかるけど、その分、仕事にとても厳しくて、私はもちろん、部下の間では、「相田」ならぬ「鬼田」と密かに呼ばれてる。

ほんとに、いつも怒鳴ってる印象しかないもんね・・・。

デスクに戻った相田を見る心菜。
パソコンを操作していた相田、顔を上げると、斜め向かいの平井太郎(ひらいたろう・25)に視線を向けて、「チッ」と小さく舌打ちをする。

相田「平井!!なにチンタラ仕事してやがる!!この後の取材間に合うのか!さっさと終わらせて、早く取材行ってこい!!」

平井「は、はいいいっ!!」

平井、血相を変え、猛スピードでキーボードをたたき、マッハの速さで立ち上がる。

平井「終わりました!!取材!行ってきます!!」

相田「ああ。早く行け!」

平井「は、はい!」

バタバタと用意をし、制作部を後にする平井。
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