素直になれたら
心菜は、取材の様子、中の様子を外から窺う。
若い新店主となる男性の姿と、その隣には、妻と思われる女性の姿。
二人とも笑顔で楽しそうに話をしている。
店に並んでいるパンは全部売り切れた様子だけれど、取材スタッフには、とっておいたロールパンを振る舞っている様子が見えた。

心菜(わ、なんかおいしそう・・・)

店内では、リポーターの水谷華歩(みずたにかほ・33)が店主と妻に笑顔でマイクを向けている。
品がある、正統派美人の華歩。

華歩「では、今日は早々に完売になったんですね」

店主「はい。おかげさまで・・・。お客さんが来てくださるか、本当に・・・本当に心配してたんですが」

華歩「杞憂でしたね。いただいたこのロールパンも、とてもおいしいです」

華歩、おいしそうにロールパンをかじって微笑む。
その、美しい笑顔の華歩に心菜は見とれる。
華歩、窓の外から店内を覗いている心菜に気づく。

華歩「お客さんかな?」

店主は心菜の方を見て、「あ」と気づいた顔になる。
店主、取材スタッフに会釈して、店の外に出てきてくれる。
心菜は慌てた様子で少し戸惑う。
 
店主「すみません。今日はもう完売でして・・・」

心菜「あ、いえ!いいんです。再開したんだなって、様子をちょっと眺めてて」

店主「ああ・・・ありがとうございます。親父の代からのお客様ですか」

心菜「はい。ここのクリームパンが大好きで。子どもの頃から、おいしくてよく食べてました」

笑顔で話す心菜。
店主は嬉しそうな笑顔になる。
   
店主「そうですか。父の味には及びませんが、僕も、僕なりにおいしいと思っていただけるパンを作っていきますので。よかったら、またいらしてください」

心菜「はい、もちろん!」

笑顔で頷く心菜。
はっとした顔をする。
テレビカメラが向けられていたことに気づく。

心菜(な、なに!?今の、撮られてたの!?)
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