薔薇の棘の痛みにキスを、あなたとの日々へ花束を
「ここからが本題」
「今までのは何だったのよ」
「君の気持ちが本物か確かめるための悪戯(あそび)」
「それで? 早くしないとメロが猫に戻ってしまうわ」
「わかったよ。兄さんを人間に戻す方法があるんだ。それは、愛する者とキスをすること」
「な、何を言って…」
「顔が真っ赤だよ。可愛いね」
「悪魔!」
「なーに? 呼んだ?」
「っ、それで私はメロとキスすればいいの? 本当に戻るんでしょうね?」
「僕を信じてよ」
「悪魔の言葉なんて信じられるわけないでしょ!?」
「じいちゃんが言ってたから大丈夫」

まだ少しだけ疑っている。

ま、まあ、キスしたところで損するわけではないし、むしろ得しかない…かも、なんて思ってないわよ。

彼と別れて私は部屋に戻った。

扉の前で深呼吸をして、ゆっくりと開けた。

「メロ?」
「おかえり」
「ただいま。もう少しで、戻ってしまうわね」
「そうだな」

寂しそうに呟く彼は、月明かりに照らされて儚げで……

猫の姿に戻るのでなく、そのまま消えてしまいそうな気がして怖い。

「あのね、メロ」
「どうした?」
「目を瞑ってくれないかしら?」
「何をするんだ?」
「い、いいから!」
「わかった」

ドキドキしながら彼に近づく。

十センチ…五センチ、四、三、二、一……


これで、メロは人間に戻れるはず。

「薔、子…」

目を見開いて私を見る彼に、きちんと説明しようと口を開いた瞬間…
大量の『何か』が頭の中に流れてきた。

「うっ…」

立っていられなくてその場に倒れそうになった私を、メロは優しく抱きとめた。

「大丈夫か!?」
「メロ…そんな顔、しないでよ…」
「薔子!!」

メロの声が聞こえるけど、返事することはできない。

体がふわふわと軽くなる。

まるで重い鎖が解けたよう。

なんだか今日はいつもより疲れたわ。
少し早いけど、おやすみの時間にしましょうか。
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