薔薇の棘の痛みにキスを、あなたとの日々へ花束を
「花園に行きましょう。メロも一緒に」

昨日の夜は雨が降っていた。
キラキラと光る雫が、普段とは違う薔薇の美しさを演出している。

「綺麗ね……メロ?」
「誰かいる」
「え?」

メロの視線の先には見覚えのある人物がいた。

「宗介さん?」
「薔子…」
「そこで何をされていたのですか?」
「僕も薔薇を見てみようと思って。薔子のお気に入りの場所だって聞いていたから」
「そうだったのですね。いかがですか? 薔薇の花園の居心地は」
「とても良いな。薔子の言う通り、心が安らぐよ」
「それは良かったです」

嬉しくて思わず「ふふっ」と、声が漏れる。

宗介さんってなんだかお堅いイメージがあったけど、
美しさも心地よさも理解できる方なのね。

「薔薇はお好きですか?」
「うん、好き」
「私も大好きです。美しさの中にも棘があるところが特に」
「…薔子は変わってるね」
「そうですか…?」
「みんなは薔薇の花の部分しか見ていない。それを美しいと言う。でも、君は棘までも見ている。僕は薔子のそういうところに惹かれたんだよ」
「……宗介さんは私の何を知っているのですか? 親同士が決めた結婚をお望みで…?」

私の言葉に、宗介さんの顔が曇る。

「君は…僕と結婚なんてしたくないって思ってるんだよね? 僕が家のために結婚しようとしている、とも思っているみたいだけど、それは違うよ。僕は自分の意思で君と一緒にいたいと思っている……兄さんの代わりじゃなくて」
「兄さん…?」

彼は慌てたように口を覆う。

「どういうこと…?」
「知らないほうがいい。君が苦しむだけだ」
「私に隠し事をするの? お願い。教えて、宗介さん」

困ったように眉を下げ、泣きそうな顔で私ではなく私の後ろにいる『彼』に目を向けた。

「……兄さんに直接聞くといいよ。君が一番信頼しているのは、彼でしょ?」

振り返ると、そこには人間の姿をしたメロがいた。

メロが……宗介さんの、お兄さん?

「メロ…?」
「宗、どうしてバラした?」
「バラすも何も、兄さんが当事者でしょ?」
「メロ、話して」
「僕は先に戻るよ。兄さん、あとはよろしくね」
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