薔薇の棘の痛みにキスを、あなたとの日々へ花束を
「おかえり」
「…ただいま」
「一人で帰ってきたの?」
「ごめんなさい。薔子に言ったけど聞いてくれなくて…」
「また薔子ちゃんに負けたのね」

『また』ってなんだよ……
悪いのは薔子だろ?
どうして俺が悪いみたいになるんだよ!

「俺は何回も言った。薔子が聞かなかっただけ」
「未来のお嫁さんに負けてどうするのよ」
「…っ、俺は別に薔子と結婚なんてしたくない。好きとかわかんないし、今からそんなこと言われたってどうしろって言うんだよ! 薔子は宗に譲るから! 俺はもう関係ない!」

階段を駆け上って勢いよく部屋のドアを閉めた。

薔子のことなんて別に……
守るとか、そばにいるとか、そんなの俺の意志じゃない。

大人にいい顔して褒めてもらうために。
家のためにやってるだけだ。

それなのに…

ドンドンドンッ——

「兄さん! 兄さん開けて!」
「…なんだよ。うるさっ…」

ドアを開けると、弟が涙で顔をぐちゃぐちゃにして、俺を見上げていた。

「宗…?」
「兄さんっ、薔子ちゃんが…」
「薔子が?」
「事故にあって、病院に運ばれて、今、危ないって……薔子ちゃん、死んじゃうかもしれない。どうしよう、兄さん…」

泣きながら俺の服をぎゅっと握る弟の手は震えていた。

「い、今すぐ病院に…父さんと母さんは?」
「一階でバタバタしてる」
「俺、ちょっと行ってくる」
「兄さんダメだよ。兄さんまで事故にあっちゃう……」
「薔子が心配なんだ! 道路だって混んでるだろ? いつ病院に着くかわからない。その間にも薔子は…」

最悪のことなんて考えたくない。
でも、もしかしたら……

俺は弟の反対を押し切り、家を飛び出した。
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