薔薇の棘の痛みにキスを、あなたとの日々へ花束を
さっきよりも更に強くなった雨。
傘なんて無意味な状況で、俺はびしょ濡れになりながら、全速力で走った。

待ってろよ。

薔子、死ぬな。

濡れたまま病院に入れるはずもなく、
薔子のお父さんに入り口まで来てもらって、タオルを借りた。

「悠介くん。せっかく来てくれたのに、薔子の部屋には入れない」
「え?」
「とても危ない状況だから、家族以外は面会できないんだ」
「そんな…」

じゃあ、俺はなんのために……

「こんなことは言わないほうがいいだろうけど、君がとても真面目で頭のいい子だってわかっているから……言ってもいいかな?」
「はい」
「薔子は今本当にギリギリのところにいるんだ。僕たちは信じているけど、もしものことだってあるかもしれない……」

薔子のお父さんは声を震わせ、言葉を紡ぐ。

「薔子はね、悠介くんのことが大好きで、いつも君の話ばかりをしていたよ。小さな頃からずっと『悠介くんのお嫁さんになるんだ』って、何度も言っていた。将来は悠介くんと結婚するんだよ、って一度も言ったことはなかったけど、薔子は心から悠介くんのことを愛していたんだなって…」

薔子が死んじゃうみたいな言い方しないでほしい。
薔子はまだ生きている。

「正孝さん。薔子は生きています。俺もできることなら何でもやります。今は難しいかもしれないけど、薔子に会えるようになったら、絶対会いに行きます。だから、薔子のことを信じてください。彼女の強い生命力を」
「そうだよね。ごめん……ありがとう、悠介くん」
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