薔薇の棘の痛みにキスを、あなたとの日々へ花束を
薔子のお父さんと別れて病院を出ると、じいちゃんが待っていた。
俺が一番信頼している大好きなじいちゃんの顔を見て、今まで我慢していた涙が溢れ出した。

「じいちゃんっ、どうしよう……俺のせいで、薔子が……」
「悠介のせいじゃない。自分を責めるのはやめなさい」

じいちゃんは優しく俺の背中をさすってくれた。

「悠介は、薔子ちゃんを救いたいか?」
「うん」
「そうか……こんなことは言いたくないけど、彼女はもう助からない」
「どうしてそんなことっ、」
「前にも言っただろう? じいちゃんは視えるんだ。でも、一つだけ彼女を救う方法がある」
「それはなに?」
「……悪魔に魂を売るんだ」 
「え…?」

悪魔に、魂を、売る……?

「魂と引き換えに、彼女を救うように依頼するんだ。依頼というよりは契約と言った方が正しいかもしれない。あとはわかるな?」
「……悪魔って」
「宗介のことだ」
「そんなことしたら、力が目覚めちゃうよ!」
「大丈夫。宗介は完全な悪魔にはなれない。人間の心の割合が大きいから、強くはないよ」

これが正しいのかはわからない。
でも、薔子を救えるなら、なんだってやってやる。

「魂を売れば、彼女には会えなくなる。それでも、やるか?」
「うん。俺が薔子を守るって決めたから」
「家のためではなくて、自分の意志で?」
「そうだよ。今、心に誓った」
「さすが、じいちゃんの孫だな」

じいちゃんはそう言って俺の頭を撫でた。
こういう風にじいちゃんと話せるのも最後、か。

「最後に一つだけ。さっきも言ったけど、宗介は完全な悪魔ではない。だから、お前が消えることはない。でも、人間の姿ではいられないだろう。魂を売る前に言っておくといい。出来るだけ小さな力で済むような お前のなりたい姿を。もしかしたら、薔子ちゃんの近くに居られるかもしれないから」
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