一夜からはじまる恋
「ひとりで全部抱えてたのか?」
湊の言葉に樹が瞳を開く。
「そんなに大きな悲しみも苦しみも一人で」
痛々しいほどの切ない声でそう言う湊の言葉が樹の心にしみわたる。
「この命は彼の生まれ変わりかもしれない。たった一夜で授かるなんて奇跡だから。彼の最後の奇跡かもしれない。そう思ったんです。」
「・・・」
「だから私・・・一人でも…この子を産んでちゃんと・・・育てようって・・・」
涙でうまく話せない樹の背中を湊がさする。

「そこに俺がいるだろ。一人じゃない。俺がいる。」
「でも私はあなたのそばにいる資格ありません。だって・・・」
「もういい。」
「え?」
「何も言わなくていい。伝わった。樹の気持ちは伝わった。」
「まだ・・・」
「もういいんだ。」
湊は樹から体を離し樹を見つめた。
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