一夜からはじまる恋
昔から大きな企業の跡継ぎとして見られて大人ばかりの社会で育ったこと。その周りの大人たちは自分に取り入ろうと必死で嘘ばかりだったこと。

学生になり友達も自分の育った環境にうらやんだり、勝手に距離を作って離れたり、財産が目的で言い寄られたり・・・樹が思っている以上に湊はつらい過去を過ごしていたのだと思った。

「私、社長の顔を今日はじめて見ました。近くで。はじめは柔らかい雰囲気で接しやすいと思いました。でもステージであいさつをしているときの雰囲気は全然違いました。つめたいというか、空気が張り詰めているというか。遠く感じました。」
樹の話に湊は真剣に耳を傾けてくれている。
「でも、ステージで話す社長の雰囲気に会社を背負っていく覚悟を感じたし、この人についていこうと思えました。この人のもとで頑張ろうと思えました。」
「ありがとう」
「でも、今こうして社長という肩書を下ろしているときの雰囲気も私は素敵ともいますよ?どちらも高瀬湊さんですから。」
「・・・。」
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