一夜からはじまる恋
大きな悲しみと再会
「久しぶり」
樹は病院にいた。

あの夜。湊との夜がまるで夢の中の出来事のように感じていた。あれから一か月がたとうとしている。同じ会社にいても樹は湊の姿すら見ていない。

季節ごとに発刊される社報で湊の記事を読んだくらいで湊の面影すら感じることはなかった。

お互いに連絡先すら交換していない二人は心にずっとあの夜が大きく残ったまま、会おうとはしなかった。


『コンコン』病室がノックされて一人の年配の女性が入ってくる。
「あら、樹ちゃん来てくれてたの?」
「こんにちは。お久しぶりです。」
「来てくれるだけでうれしいわ。ありがとう。陸もきっと喜んでるわね。」
女性がベッドに近づく。
< 23 / 349 >

この作品をシェア

pagetop