一夜からはじまる恋
「お疲れ様」
湊が樹のバックを預かる。
「最後の日くらい一緒に帰ってもいいだろ?」
社員の視線を浴びながら湊は樹の腰に手をまわした。
「ちょっと・・・」
湊を止めようとしても樹の腰に回す湊の手はびくりともしない。
「だめ。俺は6年分の樹の頑張りをねぎらいたいの」
湊の言葉に会社に入社してからのことを走馬灯のように思い出した。
緊張しながらリクルートスーツに身を包み入社試験を受けた日。採用が決まって希望を胸に出社した日。初めて仕事でミスをして上司に怒られた次の出社の日。初めて企画が通って喜びにあふれた日。

陸がなくなった後、絶望の中半月休んで仕事に復帰した日。
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