一夜からはじまる恋
「俺も同じだ。守りたい命も守れない。逆らえない運命もあるんだって思い知らされてるよ。今もこの病院に入院してる。今回は長そうなんだ。いつも退院できるかどうかはらはらしてるよ。できればずっと妻のそばにいたい。一分一秒だって俺には惜しい。」
病院の跡取りと製薬会社の娘の結婚は本当は奥さんの姉と結婚する予定だった。でもその姉が事故にあって行方不明になり妹と政略結婚をしたと聞いていた。
「でも、そんなこと妻が望まない。妻の望みは自分がいついなくなっても俺が一人で生きていけるように社会から離れないことなんだ。俺も医者としていつでも妻を助けられるように腕を磨かないとな。」
廉は湊の方を見た。その表情は影がありながらも前を見据えている。
「奥さんとの未来は湊が作っていくんだろ?今回のことはたくさんこれから待っている試練の一つだと思って、お前がしっかりしなくてどうする?」
湊は自分の両手をぎゅっと握ってから同意書にサインをした。

すぐに樹の麻酔が始められる。
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