一夜からはじまる恋
誰のための決断か
何となく湊がいるような気がしていた樹の予感が的中した。自分のアパートの前には見慣れた車。運転席の扉に寄りかかり立っているのはほかの誰でもない、湊だった。

湊の姿を見つけて樹は小さく深呼吸をする。

そしてそっと自分のお腹に触れた。

もうすぐ妊娠4か月。少しお腹が目立ってきている。つわりはまだひどくてもちゃんとお腹の中で自分と湊の子供が育っていることを実感しながら、湊と早く向き合わなくてはと思っていた。

ゆっくりと湊に歩み寄ると
「おかえり」
と疲れた顔の湊が笑顔で樹を迎えた。

「お疲れさまでした」
樹は複雑な表情を浮かべながらも最悪の事態を免れた湊の努力をねぎらいたかった。
< 86 / 349 >

この作品をシェア

pagetop