それは線香花火のような
僕が彼女──清水さんと出会ったのは数年前のこと、とある建築関係の会社の同じチームの同僚として、昨年の春に二人同時に異動してきた。
清水さんは短大卒業の春に事務員として入社し、既に勤務歴五年目の二十四歳だった。一方の僕は彼女がこのチームに異動してきたと同時期、大学卒業の春に入社した。当時の僕は二十二歳であり、彼女の方が年齢の上でも仕事の上でも年上かつ先輩であった。
こう言っては失礼だが──正直に言うと彼女の容姿は普通であったが、身なりや服装、化粧などはそこそこ垢抜けていて、噂に聞いた"感じのいいお姉さん"という評判は全く妥当であったし、周りの男性陣からも人気が無いわけではなかった。仕事の教え方もとても丁寧で、仕事もきっとできる方に入るだろう。
就職するまでずっと学生だった僕は、席が隣になった清水さんに色々なことを教えてもらいながら、社会人として、会社の一社員として成長してきたつもりだ。
当時、僕には大学から付き合っていた年下の彼女がいた。一応、そこそこ普通の若い独身の男ということで、入社当時には彼女の有無を直ぐに確認されたが、彼女持ちと分かると女性陣は波が引くように興味を失って去っていった。清水さんも年上の余裕のある男が好きだと言っていたし、恋愛イベント的な何かが起こる予感は無かった。
「西村くん、今日飲みに行かない?」
金曜の夜、飲み好きの清水さんから誘われることは珍しくなかった。いつも仕事面でとてもお世話になっているし、二人とも他意がないのは分かりきっていたので、仕事帰りに居酒屋に付き合うのはままあった。
そんな社会人生活が続いていた一年目の秋、僕と清水さんの仲を激しく嫉妬して聞く耳を持たなかった彼女から別れを切り出され、僕は清水さんと同じ寂しい独り身の仲間入りを果たしたのだった。