それは線香花火のような

 フラれました、というと周りの人間はちょっと笑いながらも慰めてくれたが、実際には彼女に振られたからといって、連日連夜激しく落ち込むようなダメージは受けていなかった。ああやってしまったのか、という後悔と申し訳ないという思いはあったが、引きずるほど彼女を想い、常に気遣えるほど好きだったのかと言われると疑問符が浮かぶ。だから振られてしまったのだろうが。

「振られてしまった西村くん、ヤケ酒いこ!」

 変に気遣われるより普段通りに扱ってもらえるのはありがたかった。その日は少し飲みすぎてしまい、翌日の目覚めたときは激しく後悔した。

 振られた責任は、確かに僕が彼女を放っておいたこともありますけど、でも四分の一くらいは貴女にあるんですよ──。そう言っていたら、清水さんはどんな反応をしただろうか。どんな顔をしただろうか。

 実際には決して言うことは無いだろうけれど、その日二日酔いでズキズキする頭で考えずにはいられなかった。





 年末から三月の年度末に向けて仕事が忙しくなり、連日残業をしていた。初めは三時間も残業すると翌日まで疲労感を感じたが、やらなけれならない仕事を片付けるためには四時間でもするようになった。

 そして時間は風のように過ぎ去って季節は春になり、ようやく仕事が落ち着いてきたころ、去る人もいれば来る人もいる。異動になった人の席に、同じ課に新入社員が配属された。男性と女性の二人である。どちらも二十二歳であり、男性の方は同じチームに配属された。女性の方は庶務の方に回った。

 うちのチームは営業や外回りの仕事が多く、お客様と直接やりとりする場面が多い。経験を積ませるためにも、若手と若手を育てるためのベテランが多く配属される課・チームである。

 そのときから少し嫌な予感はしていた。
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