それは線香花火のような

「今年度から採用を頂きました、山下祐樹です。趣味はサッカーです。精一杯頑張りますので、皆さま、ご指導のほどよろしくお願いいたします」

 あれは女にモテる雰囲気イケメンというやつだなあ、と男の先輩がわざとらしく笑った。

 確かに、職場の女性陣は目を輝かせている。サッカー好きの割には色白だが、身長は高めで確かにさわやかな印象があった。整った顔立ちではないが、雰囲気というのは恐ろしい。女性陣にとっては"特段美形すぎず、それなりに良いそれなりの顔"なのだろう。

「同じく今年から採用されました、庶務の牧綾子です。皆さま、よろしくお願いします」

 彼の隣でぺこりと頭を下げた同じく新入社員の子は辺りを見渡してはにかんだ。

 その様子を僕の隣で遠巻きに眺めていた年上の同僚が「牧さんね、清楚っぽくてかわいいね」と含み笑いをした。僕は何も返さなかった。

 新任者紹介も終わり、それぞれのチームの席に散っていったとき、清水さんが普段より笑顔が多く、そして浮き足立っている様子なのが分かった。彼女も新人君のことが気になるのだろうか。

 平凡な自分には関係のないことだが、女性陣の肉食さは恐ろしい。早速話しかけに行ってプライベートな自分を売り込んでいるのを見て、分かりやすく必死だなあと僕は人知れず小さく笑った。

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