それは線香花火のような

 清水さんはまず山下くんの恋愛観を探ろうと過去の恋愛の話を聞くことにしたようだ。質問された山下くんはちょっと焦ったように手を振った。

「え、自分ですか。大学時代、彼女はいませんでしたからお話しできることはないですよ」

「えっ、真面目!」

 その発言を鵜呑みにして素直に喜んでいるのは清水さんくらいだろう。彼女がいない人間は聖人君子だと誰が決めたというのか。

「そういう清水さんはどうなんですか?」

 新人君はさりげなく話題を逸らしたようだ。

「私? 私は彼氏は二年くらいいない」

「へー。好きなタイプは?」

「優しくて真面目な人、かな」

「いっぱいいそうな気もしますけど。じゃあ、例えば年下の男はどうですか?」

 新人君の流し目に清水さんはなんとも言えないような声を上げた。

「と、年下も大丈夫! うん!」

 清水さんは目を輝かせる。
 はい、アホ。恋は盲目。

 いつの間にか年下の男もいけるようになっていた清水さんと彼女を持ち上げ続ける新人君たちの話を真面目に聞くことが段々バカバカしくなった僕は、胸に詰まったような靄を流し込むようにハイボールを一気にあおった。

「西村さんはどうですか。結構モテていらっしゃいそうな感じですけど」

「西村くんはダメダメ! せっかく可愛い彼女がいたのに、あ、写真見たことがあるんだけどね、放置しすぎてて愛想つかされちゃったの。顔も性格も悪くないのに、付き合いと愛想が悪いからあんまりモテてないよね」

 クスクスと清水さんに笑われてイラッとした僕は、飲みかけのハイボールのグラスを彼女の鼻先に向けた。

「付き合いが悪いっていうのは無いでしょ。飲みのたびに貴女に付き合ってるじゃないですか、僕」

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