追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました
第一章


 見下ろす街が、そぼ降る雨に濡れていた。

 一夜明けても降りやまぬ雨にひとつため息をついて、カーテンをシャッと引く。窓に背中を向け、なんの気なしに壁掛け時計を見上げて、ビクンと肩を跳ねさせた。
「わっ!? もうこんな時間! 仕事に遅れちゃう!」
 通勤鞄を肩にかけ、昨日の内に用意していた紙袋を手に掴むと、大慌てで自宅マンションを飛び出した。

 濡れそぼつ傘を畳みながら、自動扉を潜る。
 腕時計に目線を落とせば、時刻は8時20分。
 ……よかった、これなら余裕だ! 駅までの猛ダッシュが功を奏し、私は始業の10分前にオフィスビルの地上ロビーに到着していた。
 右手に握る紙袋をそっと胸元に引き寄せて、三階のオフィスエントランスに続く高層エスカレーターに乗った。
 ……加護社長、喜んでくれるかな。
 チラリと見下ろす紙袋にはお手製のシフォンケーキが入っていた。これは私のお菓子作りの趣味を知り、目を輝かせた加護社長への差し入れだ。いつも色々と気に掛けてくれる加護社長は、入社した時からずっと私の憧れの人だった。これを渡した時の加護社長の反応を想像すれば、しらず頬が緩んだ。

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