追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました

「それはだめだ」
「え……」
 誘いをスッパリと断られた事に、私は落胆が隠せなかった。
「い、いや! 誘いは嬉しいが、君とヤツの時間を邪魔してはなんだ! とにかく、俺の事は気にせず二人の時間を満喫してくれ」
 気落ちする私を慮ってか、カーゴはしどろもどろに釈明を口にするが、その内容はいまひとつ響いてこない。
 というよりも、カーゴの挙動には不審感しかない。
 ……カーゴは一体、なにをそんなに慌てているんだろう?
「ッ!?」
 その時、突然カーゴがガバッと天を仰ぎ見た。
「どうかした?」
「すまんが急用ができてしまった! 明日また店で! おやすみ!」
「……おやすみなさい」
 言うが早いか、カーゴはくるりと踵を返し、慌ただしくロッジに続く道を駆け出す。私はカーゴの背中を眺めながら、首を捻っていた。
 ……なんだか、帰りがけのプリンスでも見ているみたい。プリンスの帰りがけも、いつも今のカーゴみたいに忙しない。
 まぁいいや、帰ろう。
「……あ、雨?」
 家に向かって一歩を踏み出しかけたその時、上空から小粒の雨が一滴、私の手の甲にあたって弾けた。今日は雨とは無縁な上天気だったけど、きっと、こういうのを天気雨というのだろう。
 私は無意識に、カーゴのロッジに続く道に目線を向けた。
 え!? その瞬間、今まさに曲がり角に消えゆかんとする白い尾っぽの先っちょが見えた!ような気がした。
 必死に目を凝らしてみたけれど、既に尾っぽらしき物は影も形もなかった。
 ……アレ、プリンスの尾っぽだよね? ……いやいや、まさかね?
「うん、私はきっと連日の元同級生の接客やなんやで疲れてる! 今日は早めに休んで、しっかり明日に備えなくっちゃ!」
 私は過ぎった想像を振り切って、今度こそ玄関に向かった。



< 150 / 205 >

この作品をシェア

pagetop