追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました
夜の帳が下りれば村は眠りにつき、次の夜明けに目覚める。人々は自然と同じサイクルで、ゆったりと穏やかな日々を繰り返す。
……これがきっと、人間の本来の姿なんだろうなぁ。少なくとも、日々の仕事を惰性で熟し、寝食以外のほとんどの時間を『桃色ワンダーランド』のゲームに費やす。これは正しい姿じゃなかった。
……だけど、皮肉な話だ。そんな私が今は『桃色ワンダーランド』の世界で、前世よりも余程に人間らしい暮らしを満喫している。
そう考えれば、悪役令嬢への転生というのも、決して悪いものじゃない。
――ガタンッ、ガタンッ。
私がそんな事を考えながら歩いていると、ジェームズさんの農園に続く方向からなにかの走行音らしき物音が聞こえてきた。
不思議に思って農園の方向に目を凝らせば、ハウスの付近に私が持つのと同じようなランタンの明かりが見てとれた。
……こんな時間に作業なんて、ずいぶんと精が出るわね。
驚きつつも、私はそう納得して自宅の方へと踏み出した。だけど一歩を踏み出したところで違和感に気付き、ピタリと足が止まる。
……ううん、違う。だって、ランタンの明かりが複数あった! 独り暮らしのジェームズさんの農園に複数人の気配があるのはおかしい!
私は明かりを目立たせぬよう羽織っていたストールを外すと、急いでランタンの上にかぶせた。足元だけを照らすように低い位置にランタンを持ち直し、宵闇に紛れてジェームズさんの農園に続く道を駆けた。