追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました

 それにしたって加護社長が無類の甘い物好きだなんて意外だなぁ……。ううん、やっぱり大酒飲みってよりは、スイーツ男子ってタイプかも……! 私は一人、脳内妄想に忙しかった。
「ちょっと愛莉、あんた朝からなにニマニマしてんのよ? 気持ち悪い」
 高層エスカレーターが間もなくオフィスエントランスに到着しようかという時、上から居丈高な声がかかる。
「里奈……!」
 見上げれば声の主は同僚の里奈で、どうやら彼女は私の事を上から眺めていたらしかった。
 ……気持ち悪いと言いながら、何故声を掛けてくるのか? 入社当時から何かにつけて突っかかってこられ、私はすっかり辟易していた。
 里奈とは永遠に相容れられる気がしない。この際、転勤でも出向でもなんでもいい。願う事なら里奈と離れ、のんびりと穏便に日々を過ごしたいものだ。
 ここでちょうどエスカレーターがオフィスエントランスに到着した。
「別になんでもないよ」
 私はすげなく答えると、待ち構えていた里奈を身をくねらせて避けながら、オフィスエントランスに踏み出した。
「……それ、なんなのよ?」
「や!? 返して!!」
 突然手が伸びてきたと思ったら、紙袋を乱暴に掴んで引かれた。
 取り上げられては堪らないと、グッと紙袋を引き返した。ところがその瞬間に、里奈が紙袋からパッと手を離した事で、後ろに引いた力の殺しどころがなくなった。雨でエスカレーターの昇降部分が濡れていた事も災いした。
 え?と思った時には、私は足を滑らせて三階から地上に続く高層エスカレーターを転がり落ちていた。幸か不幸かエスカレーターには誰も乗っておらず、遮るもののないまま落下の勢いはますます増した。

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