追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました

 激しく打ち付けれらて、体がゴム鞠のように跳ねる。里奈の黄色い悲鳴と周囲のざわめきを、どこか遠く聞いていた。
「柏木――!!」
 その時、よく知る声が耳を打った。
 ……あぁ、加護社長。既に私の体は、ほとんどの感覚を手放していたのだけれど、その声を聞いた瞬間は、ふんわりと胸が温かくなるのを感じた。
「柏木、しっかりしろ!」
 騒ぎを聞きつけて、飛び出してきたのだろう。いつも冷静沈着で、表情を崩さない加護社長の、こんなふうに取り乱した様子を見るのは初めてだった。
 人ごみを掻き分けて駆け付けた加護社長は泣いていた。その涙の雫が、私の頬に弾ける。
 ゆっくりとその唇が開かれたように見えた。
「――」
 けれど無情にも、加護社長の姿が霞む。目が、耳が、五感の全てが遠くなる。
 加護社長のために作ったシフォンケーキは紙袋から飛び出して、無残に潰れていた。
 ……いい出来だったんだけどなぁ。
 もう、加護社長に食べてもらえない事が残念だった。
 ……あぁ、だけど最後に視界に映したのが、あなたでよかった。そうして最後に聞けたのがあなたの声でよかった。
 そんなふうに思ったのが、最期。ポタリ、ポタリと雫が頬を弾く感覚も全て無くなった。

 今でも私は、ふとした折に思い出す。
 あの時、加護社長は一体どんな言葉を紡ごうとしたのだろう――?


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