追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました



「ふんだ。そうは言ったって、盾くらい使わなくちゃ学園と言う名の戦場で我が身が守れないじゃない」
 学舎の廊下を進みながら、私は唇を尖らせていた。
 本当なら、私だってまどろっこしい盾なんて放り出し、槍でリリアーナを返り討ちにしてやりたい。だけど悲しいかな、どんなに足掻いても私の手に、絶対に槍は握れない。
 だから、私はせいぜい盾を突き、我が身への被害を最小限に抑えながら、来たる日を指折りに数えて過ごすのだ。
「はぁあ~。でもさ、ああもあからさまに言われっぱなしじゃやるせないよねぇ」
 特大のため息をつきながら何の気なしに天井を仰ぎ見れば、一面に描かれた荘厳な天井画が目に飛び込んだ。
 おもむろに足を止め、廊下をぐるりと見回す。大きく取られたアーチ状のくり貫き窓も、緻密な彫刻が施された支柱も、見渡すそこかしこが息をのむほどに美しかった。『桃色ワンダーランド』の舞台である、ここセント・ヴィンセント王立学園は、まるでそれ自体が芸術作品のようだ。
 私はそんな美麗な学園で繰り広げられる恋模様に、心を熱くしたのだ。
 ……だけど、今では思う。エヴァンに二コラ、ロベールといった攻略対象の生徒は、リリアーナの裏の顔に気付こうともせず、鼻の下を伸ばすばかり。そんな攻略対象など、ちっとも恰好よくなんてない。
「……それだったら、カーゴの方が百倍も格好いい」
 私はゲーム内では名前すら出て来なかった、クラスメイトの姿を思い浮かべた。

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