追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました
横の大型オーブンから立ち昇る、甘く香ばしい香りに俺はクンッと鼻をヒクつかせた。
自然と尾っぽも、パッタンパッタンと揺れる。
その時、アイリーンが掻き混ぜていた手を止める。右手にミトンをつけると、オーブンに向かう。
アイリーンは左手でオーブンの扉を開き、中からふんわりと黄金色に焼き上がったなにかを取り出す。一層濃く立ち昇る、甘~い香り。そうしてなにより、焼き上がったそれを見たアイリーンが、甘く蕩けるように笑う。
あれは、なんだ? 巨木の陰から目を凝らす。
……あ、あれは! シフォンケーキ――!!
目にした瞬間、俺の瞳孔はキラリと縦に光り、はち切れそうな勢いで尾っぽが振れた。
しかもあのシフォンケーキはそんじょそこらのシフォンケーキとはわけが違う! アイリーン手作りのシフォンケーキだ――!!
気付いた時には、俺は巨木の陰を飛び出していた。同時にここで、掠れ掠れになんとか現状認識していた『俺』の意識は、プツリと途切れた――。