追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました


◇◇◇


「よし、出来た!」
 カーゴの予想通り、夕方すぎからザーザー降りの雨になった。
 雨が降ると、客足は一気に遠のく。三日前に雨がパラついた時も、客足はパタリと途絶えてしまった。
 今日もきっと、もうお客様は来ない。そう踏んで、私はマルゴーさんが帰ってから、ずっと厨房でシフォンケーキの試作品を作っていた。
「見た目は文句なし。さて、肝心の味はどうかな?」
 私はふっくらと焼き上がったシフォンケーキをさっそく皿に移した。
 ――カラン、カラン。
 私がまさにシフォンケーキにフォークを入れようかというその時、入店を報せるベルが鳴る。
 え!? こんな天気にお客様!
「い、いらっしゃいませ! すぐに伺います!」
 私は慌ててフォークを置くと、厨房からカウンター越しに声を張る。
 厨房からひらりと店内に身を滑らせて、入口の扉を視界に捉えた瞬間、私は目を見開いたまま岩の如く固まった。
 我が目が信じられず、意図的に瞬きを繰り返した。しかし、目の前の光景は先ほどと寸分も変わらない。
 ……おかしいのは、我が目じゃない。
 バックンバックンと、胸を突き破りそうな勢いで鼓動が鳴る。全身を滝のような汗が伝う。
 ……おかしいのは、私の頭! だって私、見えてはいけないモノが見えている!!

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