追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました

 ……じゃ、じゃあどうしたら!?
「ガルル、ガル、ガル」
 ひぇええっ! また唸ってる! しかも、凄い涎!!
「っ! ええい、これでも食らえ!」
 窮地に追い込まれた私は咄嗟に右手ののし棒を放り、代わりにシフォンケーキののった皿を掴んで『凶悪な毛むくじゃら』に差し出した。
「ガルッ! グァルルルル!」
 ひと際大きな咆哮を耳にしたのが最後。差し出した皿が奪うように取られたのは分かったが、恐ろしさから、これ以上見ている事はできなかった。
 私は身を縮め、ギュッと瞼を瞑ったまま、フライパンを握り締めて『凶悪な毛むくじゃら』の咀嚼音を聞いていた。
 半ば捨て鉢で取った行動だった。だけど咄嗟の行動が功を奏し『凶悪な毛むくじゃら』はムシャムシャと物凄い勢いでシフォンケーキを食べ進めているようだ。
 とはいえ、それとて所詮、私に一刻の猶予を与えてくれたに過ぎない。恐ろし気な咀嚼音が私の戦意を奪う。体は恐怖で固まって、これでは『凶悪な毛むくじゃら』に立ち向かう事はできない。
 ……万策は尽きた。あのシフォンケーキが食べ終わった時、次に食われるのは私だ。
 すると脳裏に、前世の日本の事から、今日に至るまでの日々の記憶が、走馬灯のように浮かび上がった。モノクロで早送りみたいに脳内を駆けて行く記憶の中で、不思議な事にカーゴの姿だけが鮮やかな色彩と確かな存在感を持っていた。

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