今、私はそれを捨てに行く。
 振り返ると、彼は結構モテる人だった。告白なんて一体何回されたのか見当もつかない。そこそこかっこよくて、友達も多く目立つ方だったし、優しくて勉強も運動も出来たから、意外ではないのかもしれない。だからといって、当時の私はそんな彼と仲がいいことを自慢に思うわけではなかった。
 
 _____ただ普通の友達だった。友達だと思っていた。

 色恋沙汰に疎かった私は、この年のバレンタインをきっかけに、人は誰かを恋愛的な意味で好きになるのだということを知った。少女マンガの世界だけではないのだと。そして、彼のことをそういう意味で好いている女の子がいるということを。

 「彼は甘いものが大好きだから、2人から貰ったらきっと喜ぶと思うよ」

 私は無意識に、マウントを取っていたのかもしれない。貴方たちより私の方が何倍も、彼を知っているというマウント。もうその頃には頻繁に家に行ったりというのは無くなっていたが、それでも親同士の関係もあり仲は良かったし、遊ぶこともあった。

 「貴方は好きな人とかいないの?」

 片方の友達がそう聞いてきた。せっかくのバレンタインなんだし、いるなら告白しちゃいなよ。バレンタインという、ほんの少しいつもとは違う空気の中で友達も私も、きっと浮かれていた。

 「じゃあ私も、彼に告白しちゃおうかなあ」

 その後は一瞬だった。自分でもよく分かっていなかった気がする。ルーズリーフを半分に切って、告白の言葉を書き連ねた。そしてそれを彼に渡す予定の紙袋に入れ、いくつか既に置いてある紙袋を横目にロッカーに突っ込んだ。
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