トビウオとメダカ
episode4*
「じゃあ、今から行くねっ。」
「…。」
まさかこの後、あんな事が起こるなんて
思っていなかった。
*
" ピンポーン "
家中に響きわたる音。
インターホンを除くと、彼が微笑みながら
カメラをみつめている。
微笑んでいる彼を見て
頬が赤くなって、
数秒の間、時間がとまったような感じだった。
ハッ!と目を覚まして
すぐに扉をあげた。
「お邪魔します」
「…どうぞ。」
ニッコリ笑いながら、つまみとお酒を持って
スタスタと入って行く彼と緊張する私。
「すごい部屋綺麗だね〜 一人暮らしなの?」
「えぇ…まぁ。」
「いいね。俺も一人暮らし!」
どう考えても、女の子の部屋に
簡単にやってくる人が
誰かと住んでるなんて考えられない。
まぁ…でしょうね…って言う気持ちだった。
"プシュッ!"
缶ビールを空ける音と共に
「幸ちゃん乾杯!」と
ニッコリ笑う彼。
私は、緊張で震えている手に
缶ビールを持って、苦笑いしながら
「か…乾杯!」とお互いの缶をあわせた。
2人だけのお部屋…しかも初めて男の人と…。
いい音でもなく、幸せな音でもない。
これからどんな事が起こってしまうんだろう。
と、不安が伝わったような缶の低い音と、微笑む彼。
「幸ちゃんは、どういう人が好きなの?」
「えっ…?なんですか急に。」
「なんとなく。聞いてみただけだよ〜。」
「特にないです…。」
「えーないの?ほんとうに?」
私の顔を除く彼。
恋愛なんて今までした事なんてなかった。
と言うより、友達さえも
ちゃんと出来た事なんてないのに
タイプなんて言われても
答えることなんて、出来なかった。
落ち込むような顔をする私に彼は言う。
「じゃあ、俺かなー」
「何で、そうなるんですか!」
「タイプがないなら、俺が幸ちゃんのタイプになってあげる。」
甘い顔をして私に囁く、彼。
「えっ…。」
そんな事、なんでこんな簡単に言える人なの?
私に何を求めてるんだろうか?お金…?とか。
まったくもって、何を考えてるかわからない。
自由な人だな。怖くなって私は声を荒げた。
「あの!何目的ですか?私お金なんてないし いい体もしてませんから
からかうのやめてもらっていいですか…!。」
少し、酔っていたのか
結構強めで言ってしまった。
「俺は本気だよ?お金とか体目的だったら、道端で待ってるような女の子で充分。」
強めで言っても、彼はビビらず
真っ直ぐ、私の顔を見て言う彼。
「そんな顔されたって…信じられません。」
と言ってムスッとする表情でみつめる私。
「大丈夫。」
「なにがですかっ!」
「今は信じてもらえないけど、ちゃんと信じてもらえるようにするから。」
ニッコリと笑う彼と疑う顔をする私。
今は、まったくといって信じていなかった。
でも、彼の微笑んでいる顔を見てると、
ちょっとぐらいは信じようかと思った単純な私。
だけど、考えるとこんな変な出逢い方をして、
信じた所でどうせ裏切られて、
無かった事になるのが落ち。心の中でそう思った。
どうせ今だけ…と。軽い気持ちで考える事ににした。
それからも話は続いて
お互い、だいぶいい感じに酔いがまわってきて
酒もおつまみも無くなった。
私は結構酔っていたけれど
彼は少しほろ酔い程度で、
強いんだなぁ…。と感じた。
「幸ちゃん、大丈夫?顔赤いけど?」
「あぁ…大丈夫です…」
「結構弱いでしょ?幸ちゃんって。」
そう言ってクスクスと笑う彼に。
「別に…!弱くなんかないです!まだ飲めますもん!」
と強気で言ってしまった。
後で後悔する事になるとは知らずに…。
「じゃあコンビニ一緒に行く?」
座っていた私の手を引いて、立たせる彼。
「望むとこです!」
と意地をはった。
「ははっ!ほんと幸ちゃんって可愛い」
「どこがですかぁ〜…。」
「そうゆうとこ!じゃー、行こっか。」
そう言って2人で家を出た。
「幸ちゃんは危ないから、手を貸して?」
出てすぐに、ぎゅっと手をにぎりしめてきて
私は思わず、同様して頬が赤くなった。
「あれコンビニってどこ?」
「え?…」
「いや、ほら、俺。今日引っ越してきたばかりだから。」
「あ。こっちを右に…。」
指を指して、案内しようとしたら
石ころにつまずいた。その時、
私の体が彼の広がった腕の中にスッポリと入っていき、
彼の顔と私の顔が急激に近づいて
頬を赤くする私。とビックリする彼。
「あぁ…!ごめんなさい!」
「ビックリした!ううん、大丈夫?」
首を縦にして頷く。
そしてまた再び、歩く彼と私。
さっきよりももっと強く、手を握られた。
「あのさ…幸ちゃん。」
「はい?」
「もう敬語使うのやめて?」
真剣な眼差しで見つめる。
「えっ?」
「えっ?じゃなくて…幸せにしたいと思う相手がいつまでも敬語使われてたら俺、困る。」
落ち込んでるような表情と足して、
少しムッとしてるような顔で私に言う。
「だからその、すごい疑問なんですが…。」
「ん?」
「その…あの…。幸せにするとかしたいとかどうゆう意味ですか…?」
やっと疑問になっていた事を、
言葉にして言える時がきた。
「んー、今は俺の勝手な一目惚れって奴。
なんだこいつって今は思ってるだろうけど。」
「えぇ…その通りです。」
「ふふっ…、まぁそう言わないで?でも、俺は諦めないし絶対幸せにさせるつもり。」
自信満々な笑みを浮かべて私を見つめている。
「だから、俺の事。ちょっとは信じて?
今はとりあえず、敬語使うのはもう禁止。」
「えぇ…!」
すごく真面目な顔でこっちを見つめる。
「…わかった。」
「うん。えらいえらい。よしよしっ!」
ポンポンと私の髪を撫でてきた。
「道端でこんな事しないで、恥ずかしい!」
「恥ずかしがってんのみてたら、もっといじりたくなっちゃうな。」
またニコニコと、彼は笑いだした。
ーーコンビニから帰宅。
「なんだか少し酔いが冷めたね〜。」
と、あくびをしながらすっかり復活している彼。
「え…えぇ?…」
と、少し引く私。
再び、買ってきたお酒を開けて呑みなおす二人。
私はだいぶ、酔ってきてしまって
言葉を発するのがやっとだった。
だけど、その言葉はあまり呂律が回っていない。
「幸ちゃん、大丈夫?」
と、心配してるのか笑ってるのか。
彼の顔が目の前にあるのは うっすらとだけど、わかった。
「あぁ…うん…だいじょ…。」
完全に意識を失いそうになる私。
目を頑張ってあけても、ボヤボヤとする視界…。
ーー限界に達して目をつぶってしまった。
すごく幸せな夢を見た。
キラキラと光る海辺で、"男の人"と
手を繋いで海を歩いている風景。
その後は水族館に行ってイルカのショーを
二人で見ている。そのあたりで、
現実に戻って目を覚ます。
「ぐっ…イタタッ!…」
頭に電気ショック走ったぐらいの頭痛。
完全にお酒のせい。いや自分だ…。
ーーそう言えば…彼は?
周りを見渡すと、横になっている彼。
ぐっすり眠っているみたい。
眠っている隙に、彼の顔を近くで観察する。
鼻が高くて、唇もぷっくり。
羨ましい顔立ちで、もし私が男だったら、
こんな顔になりたいとも少し思った。
でも尚更なんで、私なんだろうとも…。
何も言わずに、黙っている彼は
小動物みたいに可愛かった。
ーーと、その時。
いきなり腕を引っ張られて
彼の胸の上に乗せられた。
「残念、寝てると思った?」
目を開いて、ちょっと眠そうな顔で私を見つめる。
「!?」
驚いて、逃げようとするけど力が強くて難しい。
同時に、彼は笑い出した。
「もうからかわないでよ!離して!」
お酒はだいぶ、抜けた気がするのに
顔中が火傷するぐらい熱く、赤い頬。
「幸ちゃん、男がいるのに酔っ払って横で寝るって無防備すぎない?」
「だって"翼くん"が強いから、私も負けてられないって思って。」
ーーいきなり驚く彼の顔。
「ど、どうしたの?」
「今、俺のこと"翼くん"って?」
まだ出逢って1日。今まで人付き合いも苦手で
まともに男の人とだって話した事無かった。
けれど、彼は急接近してきて、
苦手意識も吹っ飛ばすように迫ってくる彼に
思わず、少し心を許している自分がいた。
「幸ちゃん、ありがとう。」
今日1日、初めて見たような嬉しい顔をする。
名前を呼んだだけで
こんなに喜ぶんだ。
すごく可愛いな…。
ーあれ?もしかして私。
ー翼くんの事、気になり始めてる?
まだ出逢って1日目というのに
何を考えてるの私…。
だめ、自惚れたらおしまいだ!
そう言ってまた自分に言い聞かせる。
ー0時をまわろうとしていた。
「翼くん、そろそろ私。」
「あ、ごめんね!長居して。」
「ううん、全然大丈夫!」
「すごい楽しかった。またお邪魔するねっ。」
「え?あっ、うん。」
ドアを開けて、帰ろうとする彼。
私も楽しかった!なんて
まだ、直接言うには抵抗があって答えられなかった。だけど色んな会話もしたり
ほんの短い距離だったけど
一緒に歩いてコンビニに行った時も
全然嫌じゃなかった。
そう思って、笑顔で彼を見送る。
彼はいきなり、私の方に振り返って
開いた家のドアを閉じた。
「幸ちゃん、俺決めた。」
「え?何を?」
ー「幸ちゃんはもう、俺の彼女にした。」
そう言ってまた彼は勝手に
私の許可もなく 2回目のキスをした。
ーー彼女!?…。した!?…。
episode4*おわり