人生の楽しみ方
 エントランスで待っていると、君が手を振る。ジーンズに白いTシャツというラフな格好で、すっぴんだったけどやっぱり素敵だった。

 「急でごめんね。お店にお魚お願いしてきたの。きっと美味しいよ。」

 「日に焼けてる。」

 「注意してるんだけど、やっぱり焼けちゃうんだよね。」

 そう言って歩き出す。

 「荷物、貸して?」

 「大丈夫。すぐだから。」

 道沿いの小さなお店までは5分程だった。お店の戸を開けると、女将さんが笑顔で迎えてくれる。

 「いらっしゃい!お姉さん、用意してあるわよ!あら、旦那さん?」

 「ありがとうございます。面倒な事お願いしてすみません。」

 君は否定も肯定もせずに対応する。

 「今日はね、河豚だったんだけどヒラメもカサゴも掛かったの。全部お願いしちゃった。」

 君はニコニコして話す。飲み物を選んで乾杯をする。レストランでの君とはまた違って、サワーを飲む君は格好良かった。

 「お疲れ様。楽しかったみたいだね。」

 「うん。望さんは何してたの?」

 「昨日のひなさんと同じ事。泳いでた。」

 「望さんも少し焼けてるもんね。」

 刺身の盛り合わせが運ばれてくる。

 「これ、全部釣った魚?」

 「いやー、ヒラメだけじゃない?」

 二人でお刺身を食べる。とても美味しくて驚かされる。

 「すごいな。新鮮で美味しい。」

 「ねっ!」

 「釣りって、楽しくて獲物があって、楽しいかもしれないね。」

 「そうなの。東京湾でも出来るんだから。」

 「…知らなかった。」

 「私も知らなかったよ。完全に勢いで始めて、それで知ったんだもん。」

 ふぐの白子ポン酢と唐揚げが運ばれてくる。

 「これ、釣った河豚?」

 「そう。食べよ!」

 どちらも美味しくて箸が止まらない。君はニコニコしながらそれを見ている。

 「良かった、喜んで貰えて。」

 「美味しいよ、これ。こんなに美味しいなんて思わなかった。」

 「沢山食べて!私も食べる。」

 君はサワーを飲みながら幸せそうに食べる。あんまり無防備だから、思わず微笑む。女将さんが声を掛ける。

 「二人は仲良しだね!そんなに美味しそうにされたら嬉しくなっちゃうよ!これ、サービス!」

 河豚の煮こごりだった。君は嬉しそうに笑ってお礼を言う。

 「ありがとうございます!私これ、大好きなんです!!!」

 貰うのが上手すぎだろう…と思いながら俺も礼を言う。

 「ありがとうございます。いただきます。」

 「お兄さんは幸せだね!こんな奥さんが居て。」

 「いやぁ…。」

 頭をかきながら曖昧な返事をする。君は知らん顔をしている。

 「ごゆっくりね!」

 君は嬉しそうに煮こごりを口に含む。

 「美味しいっ!!!」

 俺も煮こごりを口にすると濃い味が広がる。俺達は美味しい料理を堪能しながら酒を飲んだ。
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