人生の楽しみ方
 海水浴場は人がまばらで、静かだった。

 「ねぇ、泳がない?水着ならあるし。」

 「少しだけなら。」

 君は荷物の中から水着とタオルを出す。

 「車で着替えて良い?」

 君はさっさと後部座席に入って服を脱ぎ始める。俺は回りに注意しながら待ってると、君は水着姿で出てくる。

 「俺も着替えるから少し待って。」

 俺は車で服を脱ぎ、水着を着る。車をロックして君を見る。君の身体には俺の痕が付いていて、それでも厭らしさはあまり無くて。

 「あんまりジロジロ見ないで。」

 「いや、綺麗だったからつい。」

 君は俺の腕を取り、歩き始めた。少ない海水浴客は君を無遠慮に見る。君は意に介さず、俺を見る。

 「ひなさん、こんなにジロジロ見られて大変だよね。」

 「あんまり気にしない様にしてる。」

 そりゃ、気が休まらないよな…と思う。他の男へのアピールの為に、俺は君の頬にキスをする。君は何かを理解した様に俺に身体を寄せる。

 「あんまり身体くっつけられると反応しちゃいそうだよ。」

 「そしたら海でしちゃえば?」

 「こら。」

 君は少し笑って砂浜にタオルと小さな荷物を置いて、俺の手を引いて海へ向かう。水は温くて肌にすっと馴染む。君はザブザブと海に入って俺の手を引く。俺は君の身体を捕まえようとするけど、君はするりと抜けて泳いで逃げる。

 「魚みたいだな。」

 「魚の気持ちを知るのよ。」

 君は笑って海に潜る。君は姿を消してしまう。突然足をつつかれて驚いたり、君はイタズラばかり。君を捕まえて抱き締める。

 「捕まえた。」

 「捕まっちゃった。」

 君は楽しそうに笑ってる。俺は君が笑ってるのがとても嬉しくて。

 「ひなさんとまた会いたい。」

 「東京でね。」

 「連絡するから、出て。」

 「うん。」

 一夏の恋なんかで終わらせたくない。そう思った。
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