人生の楽しみ方
 君は何かを悟られたくないみたいに、世間話を続けてた。その、痛々しい姿がたまらない。

 「ひなさん、俺を見てよ。」

 君はお喋りを止める。そして、背を向ける。

 「無理はしないで。」

 「無理なんてしてないよ?」

 背中から抱き締めると君は少し暴れる。

 「素敵だったよ。」

 「え?」

 「望さん、素敵だった。」

 君は真っ直ぐな瞳で俺を見る。

 「夜も、朝も。だから、これからもそうして?」

 君の唇を塞ぐ。君は大人しく俺を受け止める。

 「それだけにしたくない。」

 「…どうして?」

 「内緒。」

 「帰ろう?そして、もっと時間をかけよう?」

 俺は嬉しくなって君をもう一度抱き締める。きっと、君は少しだけ俺を見ようとしてくれてるから。俺達は車に戻って、東京へ戻った。
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