人生の楽しみ方
 入り口の手荷物チェックを受けると、君はずんずん歩いて行ってしまう。

 「どこか目的があるの?」

 「本丸に向かってるよ。」

 迷いの無い様子で歩く君は焦っているみたいで、思わず苦笑する。

 「そんなに急がなくても逃げないよ?」

 「だって、場所取られちゃうもん。」

 「取られる?」

 「着いてきて?」

 君は俺の腕を掴んでグイグイ進む。坂を上って開けた庭園に出る。そして芝生の中に入って日陰にしゃがみこむ。

 「どうしたの?」

 「そっち持って?」

 君はバッグからシートを取り出して敷こうとしていた。どうやら今日はピクニックのつもりらしい。

 「これでいいかな?」

 シートを延ばすと、君はシートに上がって更にバッグを漁る。

 「おつまみとワイン。」

 「お酒は禁止じゃないの?」

 「ばれなきゃ大丈夫だよ。」

 「大胆だな。」

 君は微笑んで、コップを差し出す。冷えたワインはキラキラ輝いて、注がれて。

 「こっちは簡単なおつまみ。美味しいんだから。」

 君はゆず味噌とフルーツバターにバゲットを持って来ていた。

 「ワインに合いそうだね。」

 君はコップを傾けて、俺のカップに当てる。

 「再会した私達に乾杯ね。」

 「乾杯。」

 屈託の無い調子で笑いながら君はワインを飲む。

 「どうぞ。」

 箸を手渡して貰ってゆず味噌を口にする。

 「ひなさんが作ったの?」

 「そう、ねりねりしたの。バターもね。」

 君のつまみはとても美味しくて。

 「酒飲みだなぁ。」

 「嫌なら食べないで!」

 君はふざけて飛びかかる。二人で笑い転げてると、見回りの皇宮警察が微笑む。

 「こんな事したの、初めてだ。」

 「そうなの?私、よく独りで来るよ?」

 「もてそうなのに。」

 「もてないよ。」

 君はちょっと嫌そうに言う。ちょっと心配して見詰めると、君ははっとした顔をする。

 「ごめんなさい。」

 「いいよ。嫌なの?もてるの。」

 「あんまり良い事無いから。」

 君は少し寂しそうに言う。君は何を思ってるんだろう。知りたくて、でも嫌われたくなくて。

 「ひなさんは、こんなに可愛いのに。こんなに綺麗なのに。」

 「綺麗って、呪われるんだよ?」

 悲しそうに言う君はとても、寂しそうで。君の頬を優しく撫でる。

 「大丈夫。誉めてくれてるんでしょ?」

 「今度、ひなさんが嫌じゃなければ聞かせて。ひなさんの事。」

 「いつか…。話せる様になったら。」

 君に優しく、キスをする。

 「ひなさんは、まだ怪我してる。」

 「怪我?」

 「心に怪我してる。会った時からずっと。治ればいいのに。」

 「助けて。」

 「え?」

 「動けないの。ずっと。」

 こんなに明るい、素敵なデートなのに君の心は雨が降っている。堪らない気持ちで君を胸に抱いた。こんなに綺麗なのに。こんなに素敵なのに。

 「ごめん、ランチとか沢山調べたんだけど、ひなさんを抱きたい。」

 「うん、抱かれたい。でも、せっかくだもの。食べて、飲もう。」

 君は笑ってバゲットを差し出した。
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