人生の楽しみ方
 レストランは、海の見える個室を用意していてくれた。君は引かれた椅子にそっと座ると少し微笑む。ウェイターが笑顔でメニューを持ってくる。

 「何が食べたい?」

 「海老以外。」

 その回答に少し微笑んで、コースから海老を抜いて貰う様に頼む。

 「飲み物は?ワインでも構わない?」

 「んー、グラスで一杯位で…。」

 俺はデキャンタで白ワインを頼む。白ワインはすぐに運ばれてきて、俺達は乾杯をした。

 「来てくれてありがとう。」

 「そんな…。」

 「俺は篠原望。君は?」

 「望さん。私は、立原ひな。」

 「ひなさん。」

 「望さんは何でこんな所に?」

 「俺は、ちょっと気紛れ。あんまり人の居ない静かな所へ行こうと思ってここに飛び込んだんだよ。そしたら、ひなさんを見つけちゃった。ひなさんは?」

 「私は明日から釣りなの。でも前日から来て少し泳ごうと思って。」

 「釣り?釣りするの?船で?」

 「そう。最近始めたの。」

 「俺はやったこと無いなー。」

 「楽しいよ?特に初めてなら知ること沢山あるし。」

 運ばれてきた前菜に箸を付ける。君は前菜をまじまじと眺めて口にする。ちょっと変わった女性だとは思うが、その素直な行動は全く嫌みじゃない。

 「今度、一緒に連れて行ってくれる?」

 「いいけど。大丈夫?」

 「えっ?」

 「船酔いとか…。」

 「分からないな。乗ったこと無いから。」

 君はふふふって笑う。

 「ひなさんは明日釣りに行って帰っちゃうの?」

 「その予定。」

 「じゃあ、釣りの後にまた会えない?」

 「お魚が…。」

 「そうか、新鮮なまま持って帰りたいもんね。」

 「ごめんなさい。」

 「何だか焦っちゃって。ひなさん、素敵だから約束したくなっちゃった。」

 「東京でも良いじゃない?」

 「そうだね。」

 失敗したなぁ…なんて思っていると、君は少し微笑んで言う。

 「ちょっと意地悪だったかも。ごめん。」

 「え?」

 「明日、近くのお店で釣ったお魚を一緒に食べるのはどうかな?」

 「いいの?」

 「うん。だって持ち帰ったら捌かないといけないんだよ?疲れ果ててもそれはマストなんだもの。じゃあ、明日釣りが終わったら連絡するね。」

 君は携帯を取り出す。俺も慌てて携帯を取り出して連絡先を交換した。
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