人生の楽しみ方
 「今度は望さんの番。」

 「うん、でも俺は本当に普通なんだ。」

 「普通?」

 「そう、普通。俺は大学を卒業してからずっと仕事をしていて、それなりの年齢になって。両親ともまあ、普通に仲良くて。」

 「望さんは幸せな家庭で育ったのね。」

 「どうかな。でも、おかしな事は何も無い家庭だった。」

 「だから、とっても落ち着いてるのかな。安定しているって言うか。」

 「ただ、普通の女性と結婚したいとか、そういう気持ちはあまり無くて。誰でも良い訳じゃない。でも、誰かがいなくて、それで独身。そしたらひなに出会った。」

 君は少し笑う。

 「初めて恋をした。最初は素敵な人だって思ってた。でも、すぐに気持ちを持っていかれた。君に夢中になった。」

 「望さん…。」

 「ひなが忘れられなくて、何度も夢に見た。東京に戻ってからずっと。」

 正直な気持ちを吐露する。

 「だから、昨日はデートに応じてくれて嬉しかった。それで、君を深く知りたくなって、君に教えてって頼んだ。」

 「どうだった?」

 「君はとてもしなやかで、強くて、でも優しい。君に愛される人は幸せだと思う。」

 「私は私の回りにいる人、物を愛してるよ?」

 そう、それは多分そうなんだけど。君の頭を撫でると君は不思議そうな顔をする。

 『君に特別に愛されたいんだよ。』

 言葉に出せなくて、君に笑う。君は口を尖らせて拗ねてみせる。誤魔化そうと君を抱き締める。君はじたばた暴れるけど、これは俺の秘密だから。

 「今夜でひなが帰ってしまうなんて、残念だな。」

 「また会おう?」

 「うん。」

 「ひなと、愛し合いたい。」

 「望さん、本当に私でいいの?」

 「ひなじゃないと駄目みたいだ。」

 君はちょっと寂しそうに微笑んで、俺の頬にキスをした。
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