人生の楽しみ方
 二人でゆっくり歩いて海岸線をなぞる。君はたまに俺の顔を見て微笑む。

 「ひなさんは、散歩好きなの?」

 「うん、好き。歩いてると考えがまとまるし。」

 「それ、あるよね。」

 岩場に降りる階段を見つけて、君は手を引く。緊張しながら階段を降りるとそこには広い磯が広がっている。月明かりに照らされながら二人で磯を散策する。

 「望さん、貝が沢山いるよ。」

 無邪気に生物観察している君は可愛らしくて。思わず君の手を握る。

 「え?」

 「ひなさん、ひなさんて…。」

 不思議そうに首を傾げる。

 「ごめん、何でも無いよ。」

 「言いかけて止めるとか。」

 ちょっと怒りながら先を歩いてゆく。

 「ごめんって。ただ、ひなさんがあんまり無邪気で可愛いから。」

 「あんまり可愛いとか言わないで。恥ずかしいもの。」

 振り返った君は少し顔を赤く染めている様だった。我慢が出来なくて君を捕まえる。君は少し目を伏せる。

 「ひなさんて可愛い。ひなさんに惹き付けられちゃう。」

 「まだ会ったばかりだよ?」

 「でも仕方ない。ひなさんを知りたい。」

 君は少し考えて、俺を見つめる。

 「まだ分からない。だから…少しずつ近付くのじゃ駄目?」

 「うん、そうだよね。ごめん。」

 「望さん、私だけじゃなくて色々見て?海も月も、そこにあるよ。」

 不思議な事を言うと思ったけれど、君は真剣に言ってるみたいだった。

 「自然にそこに在るんだよ?もっと感じようよ。綺麗な物に綺麗にしてもらうんだよ。」

 「浄化作用って事?」

 「そう。」

 駄目だ。俺は彼女に何一つ敵わない。強烈に惹き付けられる。俺はこれから君に夢中になってしまうのだと軽く予感する。

 「じゃあ、一緒に横になって月を見ようよ。」

 君は笑って頷いた。
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