人生の楽しみ方
 「望さん、ありがとう。」

 店を出るなり君はお礼を言う。そんな君が可愛らしくて、俺は君の頬を少し撫でる。

 「一生に一度だけだから。」

 「でも、とっても嬉しい。」

 「俺、幸福なんだ。」

 「え?」

 「大切なひなとこうやって結婚出来る事になって。」

 「私も幸福。」

 俺達は幸福なカップルになったんだ。出会った頃よりずっとずっと。

 「ひな、これからの予定立てたいんだけど、本を買って家に戻ろうか。」

 「構わないけど、本当に忙しいのね。」

 「ひなと早く家族になりたいんだ。」

 「私も。ずっと欲しかったんだ、家族が。」

 君には家族がいないの?

 「ひなのお家にも挨拶に行かないとね。」

 「その話なんだけど、、、自信無い。」

 「自信?」

 「うち、おかしいから。」

 「おかしい?」

 「うん。」

 君の手を握る。君は独りでどこかへ行ってしまいそうな気がして。

 「ひな。」

 君は小さく首を傾げて少し微笑んで。

 「ちゃんと説明するね。」

 「家に戻ろう。」

 君の手を引いて歩く。君が俺から心もはぐれない様に。君は自由ですぐに独りで行ってしまいそうだから。

 「望さん、良い天気ね。」

 「ひなは呑気だなぁ。」

 俺達は顔を見合わせて笑って、地下鉄への階段を降りていった。
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