偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~
うっかり声を出してしまい、下げたお皿を手にした叔父が「ん?」と背中越しに振り向いて、私は慌てて何でもないと首を振って笑った。

あの人、来てるんだ!

こちらに背中を向け、テラス席でひとり座ってワインを飲んでいるスーツの紳士。
話したことも名前すら知らない人だけど、一ヵ月くらい前からいつも決まった時間にテラス席でひとり飲みをしているのをよく見かけた。

鼻筋が綺麗に整っていて、切れ長の目には知的さを感じる。一度立ち上がったところを見かけたけれど百八十センチはあると思う。年は三十歳くらい。さらっとしたクセのない黒髪は指通りが良さそうで、ワインを飲む仕草にも品があって前に彼が会計をするとき、どうしても声が聞きたくてわざとお手洗いに行く振りをして後ろを通り過ぎたことがあった。

――カードで。

たったひとことだけだったのに、その心地いい低音ボイスが今でも耳に残っている。
言葉を並べればキリがないけれど、とにかく彼は私の超どストライクゾーンのイケメンなのだ。
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