偽恋人からはじまる本気恋愛！～甘美な罠に溺れて～

「ねぇ、愛美、愛美っ！」

「え？　あ、うん」

「もう、ちゃんと話聞いてるの？」

アパートに帰るとすでに優香は帰宅していた。シャワーを浴びた後もあの彼と目が合ったことが忘れられなくて、何度もその光景を思い返す。傍らでなにやら優香がものすごい勢いでベラベラ喋っていたけれど、私が上の空だということがわかると優香は口を尖らせてムッとした。怒った顔も私そっくりで、まるで鏡に映った自分を見ているようだ。

「ごめんごめん。で、なんだっけ？　また持って帰ってきた仕事を手伝って欲しいって？」

生乾きの髪の毛をタオルで拭きながら、優香を宥めてグラスに水を注ぐ。

優香は父の経営する広告代理店“アルコン広告社”の総務課に勤務している。初めの頃はコネ入社だとかなんとか言われ、毎晩泣きながら電話がかかってきて大変だったけれど、持ち前の明るさで今では立派に仕事をこなしている。

先日は、急に寿退社した社員が出てしまい、手が回らないからといって簡単な書類整理を手伝った。だから、またその類の話かと思っていると……。