偽恋人からはじまる本気恋愛！～甘美な罠に溺れて～

「今、水城さんのマンションにお邪魔してるんです」

『そうか、シオンの世話もすまないな、ありがとう、どうしてる？』

「それが……」

当然、水城さんはシオンの様子を聞いてくるだろうと思っていた。私は、もう心配ないと判断して今朝の出来事を水城さんに話した。

『そうだったのか……大変な思いをさせてしまったな、おそらくそっちに着くのは明日の夜中になる』

「あの！　水城さんが帰ってくるまでシオンちゃんのことはちゃんと見てますから安心してください。それに大事には至らなかったので、これも川野さんが機転を利かせてくれたおかげです」

案の定、水城さんの口調が少し暗くなった。だから、私は敢えて明るく振舞った。

『え？　川野？　川野って……』

「あ、川野さんは優香の彼氏なんです」

いきなり知らない名前を聞いて彼が驚くのも無理はない。シオンのことを話すことで頭がいっぱいで、肝心なことを伝え忘れていた。

水城さんは川野さんの名前を聞いて、電話口で『川野……川野』とまるで自分の記憶を辿るように何度もつぶやいている。