偽恋人からはじまる本気恋愛！～甘美な罠に溺れて～
優香はうろうろと視線を揺らしながら、言いにくそうに口ごもる。大事な話っていうから心配して急いで帰ってきたのに、恋人の振りをして欲しいなんてあまりにも予想外の展開だ。

嫌な予感がする。

「まさか、その相手のことも断り切れなかったなんて言うんじゃ……」

「その……まさか、なんだよね。それに……多分、お父さん、いずれ正式に水城さんと婚約させるつもりなんだと思う」

それを聞いて私はガクリと項垂れる。優香の断りきれない性格は多分私の域を越えている。

「優香！　お父さんに言われて渋々会ったのはともかく、彼氏がいるのに相手を断れなかったって、どういうつもり!?」

怒りまくってる私に優香が「まぁまぁ、落ち着いて」と呑気に宥めてくると、さらに怒りが増してくる。

「今回のこと、お父さんすごく乗り気でね、水城さんもすごく素敵な人だった。お父さんの気持ちに応えてあげたいけど……私、やっぱり健太さんと別れたくない。でも、私が今回の事を断れば、きっとお父さん怒って健太さんに何かするんじゃないかって、それが怖くて……」

好きな人のことを想うと胸が痛いのか、優香は今にも泣きそうな顔をして肩を落とした。

「お父さんが何かするって、どういうこと？」

そのことが気にかかって落ち着きを取り戻した私は、なるべく柔らかい口調で尋ねた。

「お父さん、会社の社長に就任してから変わったよ。利益のためなら手荒い真似も平気でする。この間だって、仕事先で少し気に入らないことがあったからってあっさり契約切っちゃったし……多分、愛美の知ってるお父さんと今のお父さんは別人だよ」

私の父の記憶は小学校五年生の時で止まっている。
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