偽恋人からはじまる本気恋愛!~甘美な罠に溺れて~
別人、か……。

優香にとっては優しくて頼りがいのある父なのかもしれないけれど、私は幼心に父には冷たい一面があると薄々感じていた。

昔、両親が離婚する前、夜中にふたりが話していたのをこっそり聞いてしまったことがあった。

――愛美は優香と違って可愛げがなさすぎる。
――離婚したら、優香の方を連れて行く。どうせ愛美はお前に懐いているんだ、お前が引き取ればいいだろう。

ショックだった。何かにつけて優香と比較されていると思っていたけれど、優しくていつも楽しい父が本当にそんなふうに私のことを思っていたなんて。

優香のことが大事なのはわかる。紹介もきっかけにすぎない。だけど、父の思い通りにならなかったら……。
優香が懸念していることが起こりうるかもしれない。

健太さんの会社に何らかの圧力をかける、とか? いやいや、いくらなんでもそんなことお父さんがするわけ……。

ない。と言い切れるほど、私は今の父をよく知らないことに気づく。

「それで、私はなにをすればいいの?」

まだ了承したつもりはないけれど、私はとりあえず話だけ聞くことにした。すると、前向きな私の姿勢に優香はパッと顔を明るくさせた。
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